ラスコーリニコフは、ついに質屋の老婆・アリョーナを殺害してしまう。
前節で語られた「偶然」の数々を背に、夕刻、下宿の庭番小屋から斧を取り出した彼は、老婆の住む建物へと足を運ぶ。
老婆の部屋でいつものように品を差し出すと、彼女が戸棚に手を伸ばした一瞬をつき、斧で頭部を殴打。老婆は即死する。
急いで金品を探し始めたそのとき、思いがけず妹リザヴェータが帰宅。ラスコーリニコフは咄嗟に彼女も殺害してしまう。
その後、部屋に誰かが入ってくる気配がし、やむなく別の部屋に身を隠してやり過ごす。訪問者たちは異変に気づき戸を破ろうとするが、結局去っていき、彼は間一髪で逃げおおせる。
🧠 感想と考察
共感からくる痛ましさ
この章を読みながら、胸が締めつけられるような悲しさがこみ上げてきました。
「本当にやらなくてもよかったのに」――そう思わずにいられなかったのは、ここまで読んできて、ラスコーリニコフという人間にある種の共感を覚えていたからです。
自分より劣っていると感じる相手に対して優越感を持つこと、人を見下してしまうこと、感情的になって危うい衝動に駆られること――そうした経験は、多かれ少なかれ誰の中にもあるのではないでしょうか。
もちろん実際に手を下すことはしない。なぜなら人生を失ってしまうからです。しかし、もしも最悪のタイミングが重なっていたら……それはまさに今回ラスコーリニコフが陥った状況そのものでした。
彼は「悪意のある殺人者」ではなく、「壊れてしまった人間」なのでしょう。だからこそ、読んでいて非常に痛ましく、やるせなかったのです。
殺意の先にある「恐怖」
事件後の彼の行動はまるで悪夢のよう。盗み出した金品をどうすることもできず、パニックの中で動き、逃げ惑う姿は、まさに彼の「精神の崩壊」を象徴しているようです。
彼の考えていた“理論”(計画といってもいい)が、現実の行為に耐えうるものではなかった。彼自身が、それを一番深く感じているのではないでしょうか。
🧍♂️【登場人物メモ】
人物 | 立場・特徴 |
---|---|
ラスコーリニコフ | 貧窮学生。老婆殺害を決行し、結果的にリザヴェータまで手にかけてしまう。 |
アリョーナ・イヴァーノヴナ | 質屋の老婆。ラスコーリニコフに斧で殺害される。 |
リザヴェータ・イヴァーノヴナ | 老婆の妹。偶然帰宅し、ラスコーリニコフに殺されてしまう。 |
コッホ | 老婆と会う約束をしていた男 |
若い男 | 老婆の部屋の前でコッホと居合わせた男。予審判事を目指しているらしい。 |
📝 まとめ
この章は、物語の大きな転換点でした。これまで空想で語られていた“理論”が、現実の血で塗り替えられた瞬間です。
ラスコーリニコフは自分の理屈に従って行動したはずでしたが、その直後から全てが崩れ始める様子は、読者に強烈な印象を残します。
「罪」が起こったいま、「罰」はどうやってやってくるのか。ラスコーリニコフの精神がこれからどう揺らぎ、変化していくのか、注目したいところです。
※この投稿は、ドストエフスキーの『罪と罰』をじっくり読みながら、感想や考察を記録していくシリーズの一部です。
これまでの感想一覧はこちら ▶️【シリーズ一覧リンク】
コメント