🕊️ 愛が重すぎるとき——ラスコーリニコフの葛藤
ラスコーリニコフの元に届いた母・プリヘーリヤからの手紙は、彼の心に大きな動揺をもたらします。
妹ドゥーニャが、自分のために不本意な結婚を決意したこと。母親もまたその決断を支えていること。それは彼にとって「自分が大切な人を不幸にしている」という事実を突きつけるものでした。
しかもその自己犠牲の構図は、マルメラードフの娘・ソーニャと重なります。ラスコーリニコフはこう考えます。
「妹が結婚して手に入れる“さっぱりした生活”は、ソーニャが売春によって得たそれと本質的には同じではないか」
彼は自責の念に押し潰されそうになりながらも、自分に何かができるわけでもないという無力感に苛まれます。
🚶♀️ 街角の少女と“義侠ごっこ”の虚しさ
そんな心の揺れの中、彼は街で奇妙な少女に出会います。14~15歳ほど、明らかに酔っていて、服ははだけ、ふらつきながら歩いている。その背後には、明らかに彼女を狙っている紳士風の男。
ラスコーリニコフは彼女を救おうと警官に声をかけ、自分のお金で馬車に乗せて家まで送ろうとします。だが少女は住所を明かさず、やがてその場を離れていく。
その直後、彼の心がひっくり返るような変化を見せます。「放っておけ」と警官に吐き捨てるのです。警官はわけがわからないですよね。さっきまで助けてあげろと言っていた人が、その逆を言うのだから。
ラスコーリニコフは急に冷めてしまったのです。どうせ確率だ、不幸な人間は一定数そうなる運命なのだ。しかもなけなしの金をまたあげてしまった、と悔やみます。そもそも俺の金じゃない、母からの仕送りの金なのに、と。
まるで先ほどの“義侠心”を自ら嘲笑うかのように、手のひらを返します。助けたつもりの自分を軽蔑し、笑い、やり場のない怒りと空虚さに囚われるラスコーリニコフ。
彼の中に渦巻く矛盾と苦悩は、さらに深くなっていくのでした。
🧠 感想と考察
- 大切な人からの愛が重荷になる瞬間
ラスコーリニコフの「苦しみ」は、自分が愛されていることそのものに起因しています。普通なら嬉しいはずの愛情も、彼の現状では「申し訳なさ」と「無力感」に変わってしまう。 - “助けたい気持ち”と“無力な自分”の間で揺れる
街の少女を助けたいと動いたものの、実際にできることは限られており、それに気づいた途端、彼は自分の“正義感”すらも否定してしまいます。 - 現実は確率でしかないというあきらめ
不幸は一定数起こるもので、それを変えられると思うのは思い上がり——ラスコーリニコフの冷めた見方が、今後の思考にも影響していきそうです。
🧾 登場人物メモ
名前 | 概要 |
---|---|
プリヘーリヤ・ラスコーリニコヴァ | ラスコーリニコフの母。息子を心から愛し支援している |
ドゥーニャ(ドゥーネチカ) | ラスコーリニコフの妹。兄のために結婚を決意した |
ソーニャ | マルメラードフの娘。家族のために売春をしている |
街の少女 | 酔ってふらついていた少女。堕落した社会の象徴のような存在 |
謎の紳士 | 少女を狙っていた男。ラスコーリニコフに追い払われる |
警官 | ラスコーリニコフに協力し、少女を守ろうとする人物 |
※この投稿は、ドストエフスキーの『罪と罰』をじっくり読みながら、感想や考察を記録していくシリーズの一部です。
これまでの感想一覧はこちら ▶️【シリーズ一覧リンク】
コメント