【日々レビュー記】『罪と罰』[第2篇-3]:夢と現実のはざまで

小説『罪と罰』

※当サイトはアフィリエイト広告を利用しています。商品を紹介し、収益を得ることがあります。

あらすじ

高熱でうなされるラスコーリニコフは、悪夢に苦しむ。やがて正気を取り戻すと、ラズーミヒン、ナスターシャ、労働組合の使いが現れる。使いは、母から送られた金を渡しに来た。しかし、ラスコーリニコフはいったん拒否。それでもラズーミヒンの取次で署名をして金を受け取る。

ラズーミヒンは食事や茶を手配し、親身に世話をする。さらに、警察事務官ザミョートフや副署長と知り合ったことを語り、下宿のおかみが持つ借用書を事件屋から取り戻したことも告げる。

見舞いの人々が去ると、ラスコーリニコフは「逃げねば」と混乱し、残ったビールを飲み干して再び眠りに落ちる。今度の眠りは回復をもたらし、夕方にすっきり目覚める。

ラズーミヒンが戻り、帽子や衣服一式を揃えて渡すが、ラスコーリニコフは苛立ちを隠せない。さらも医師ゾシーモフが訪れ、診察が始まろうとするところで場面は終わる。

🧠 感想と考察

1) 「受け取りたくない」=現実からの撤退

金も借用書回収も、普通なら生活が楽になる“朗報”です。なのにラスコーリニコフは拒絶→渋々署名という不自然な揺れを見せます。これは「この世の事務(借金・食事・衣服)」=現実の網に再び絡め取られたくない心理ではないでしょうか。
彼は「あのこと」を忘れたふりで心を守っています。金も借用書も「社会に戻れ」という合図に見え、彼の逃避本能が反射的に反発していると感じました。

2) 〈金・借用書・衣服〉の象徴性

  • :生活への復帰チケット=社会の線路。彼には“手錠”にも見える。
  • 借用書の回収:外部(ラズーミヒン)による救済。だが、罪は他人に回収してもらえないことをラスコーリニコフは身を持って感じている。そのため、いら立ってしまう。
  • 衣服:社会的アイデンティティの再装着。帽子・ズボン・靴がそろうほど、「普通の若者」へ引き戻される。彼はそれを本能的に嫌がる。罪に汚れた自分に“普通の顔”を被せられることを拒絶しているのではないか。

3) ラズーミヒン:現実を運び込む“福音”であり“厄介”

ラズーミヒンは食事・衣類・借用書・人脈……現実のリソースを次々と持ち込みます。読者目線では「いい奴」、周囲の人からも愛される「陽の力」の体現者ですね。

しかし現実逃避をしたいラスコーリニコフにとっては、不要な現実を遠慮なく運び入れてくる、顔も見たくない存在ではないでしょうか。

このねじれが、2人の会話に独特のギクシャクを生み、文章に緊張感が生まれています。

4) ザミョートフの名前が刺さる理由

ザミョートフ(警察事務官)の名が出た途端、ラスコーリニコフは即反応しますね。
「友人になった」というラズーミヒンの報告は、彼には包囲網が近づく合図に聞こえたはずです。

ラスコーリニコフにとっては、「余計なことばかりするなよな」という気持ちでしょう。

5) 眠り:回復はするが、赦しではない

「ビール→治癒の眠り→夕方の覚醒」という流れは、身体レベルの回復を示します。

なんとなくいい方向に進んでいる気がしますが、これは罪からの解放ではありません。

むしろ「社会の顔(衣服)」を着せ直される準備段階といってもいいでしょう。健康な身体(外面)と罪の意識(内面)のズレが、次の局面の不穏さを増幅します。

6) 語りのうねり:半意識→覚醒→パニック→小康

この章は、半意識(幻覚・群衆)→覚醒(金・借用書)→パニック(逃避衝動)→小康(眠り・覚醒・衣装)という言ったり来たりの構成でした。

読者は彼の視界のピントの合い/外れを一緒に体験させられます。彼の逃避と現実復帰の綱引きを共感することになります。

🧍‍♂️登場人物表

人物役割・今回の要点
ラスコーリニコフ罪からの現実逃避が強い。金・借用書・衣服=現実復帰の合図に反発。
ラズーミヒン看病と実務で現実を運ぶ友。いい奴だが、当人には“厄介者”。
ナスターシャ生活面の支え。場を和ませ、ラズーミヒンとの掛け合いが救い。
おかみ(パーシェンカ)引っ込み思案だが支援的。ラズーミヒンと協力。
ザミョートフ警察事務官。名が出るだけで罪悪感を刺激する存在。
ゾシーモフ医師。
ヴァフルーシン商人。母の送金を取り次ぐ。
チェバーロフ事件屋。借用書問題の当事者(ラズーミヒンが収束)。
労働組合の若者使い。35ルーブリを届ける。

📝 まとめ

この節の核は、「現実に戻れ」という外界の力 vs. 「消えてしまいたい」内面の衝突。金・借用書・衣服という“生活の三点セット”が、ラスコーリニコフには鎖として映ります。

一方のラズーミヒンは、人と制度をつなぐ社会の潤滑油。両者の対照が、物語を前へ押し出すエンジンになっています。

🎧 読書が好きだけど、続かない——そんな私が習慣にできたのは Audible でした。
通勤中・家事中でも“ながら読書”。忙しい人にこそおすすめです。

Audible (オーディブル) – 本を聴くAmazonのサービス

※この投稿は、ドストエフスキーの『罪と罰』をじっくり読みながら、感想や考察を記録していくシリーズの一部です。
これまでの感想一覧はこちら ▶️【シリーズ一覧リンク

コメント